パスカルズ三木さん追悼ライブで知った、宮沢賢治の言葉
私の大好きな音楽はたくさんありますが、その根幹にあるのは間違いなく、バンドの「たま」です。
一番の初めては、高校生の時にNHKの熱中人という番組に、知久さんが「ツノゼミ熱中人」として出演されていたこと。
それがとても面白く、こんな変わった人もいるもんだなぁ、と思ったら…知久さんの紹介として「本当はミュージシャンで紅白にも出たことがある」というのにびっくり仰天。
YouTubeで早速調べて、近藤聡乃さんのアニメーション作品『電車かもしれない』を見たのが「たま」を聞き始めたきっかけです。
その後は漁るように過去のアルバムを集めました。(好きなちびまる子ちゃんのエンディング曲も実はたまだった!)
好きになった時にはもう「たま」は解散していて、そのメンバーの、知久さんと石川さんが同じバンドに所属している!と出会ったのがパスカルズでした。
京都に住んでいた時は、年に一度くらいの磔磔のライブに必ず行きました。
そのパスカルズのメンバーの一人、三木さんが2020年に急逝。
先日あった追悼ライブを配信で見ました。
そこで、すごく大切な言葉に出会って、熱のあるうちに残そうと思って書いています。
原マスミさんの歌「夜の幸」
ライブの中で飛び入り演奏した原マスミさん。
画家でも有名な方で、よしもとばななさんの本の絵といえばピンとくる方も多いと思います。
今まで何度かライブも行ったことあるのですが、初めて聞くやさしい歌でした。
あとから調べて分かった題名は「夜の幸」です。
その歌の中で、歌うように、語りのように、言葉を並べられたのですが、それを聞いていて、一体どこが、なにが、私に沁みて響いているのか全然わからないのに、急に涙が出てきて、びっくりしました。
なんだかわけのわからないまま、おいおい泣けて、すごい言葉だ、と思って聞いていたら、「大正12年12月20日、宮沢賢治」と締めくくられました。
え~!宮沢賢治の詩なのか!!と思い、すぐ検索したわけです。
調べると、詩ではなく、
『「注文の多い料理店」 序』
あのお話の、序文でした。
びろうど、羅紗、わからないけれどしかたがない、宝石、とうめいな、わけがわからない、桃色、たべもの
一度聞いただけでは少しの言葉だけがこびりついただけで、でも、本当に大切なもの(これもよくわからないけれど)のなにかを感じて、この文章を暗唱しちゃおう、と思っているところです。
有難いことに、宮沢賢治の作品は著作権が切れていて、青空文庫などで読めます。
でもせっかくなので、ここにも打ち込んで載せようと思います。
『注文の多い料理店』序
宮沢賢治
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石入りのきものに、かはつてゐるのをたびたびみました。
わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです。
ほんたうに、かしはばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるへながら立つたりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです。
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。
大正十二年十二月二十日
宮沢賢治
宮沢賢治の本は文庫本で大切にしているのが一冊あって、その中でも、「シグナルとシグナレス」が好きで時々読んでいました。
この序文、知らなかったなぁ、出会えてよかったな、としみじみと感じています。
最近、国外の争いや、国内の事故など、ニュースを見るのがつらい日々が続いています。
毎日の中に、すきとおったほんとうのたべものが、宝石入りのきものが、すぐ近くにあることを忘れずにいたいという事、この言葉を、大切な言葉の標本として頭の中に保存しようと思いました。
「これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。」
世の中にいる沢山のあなた、に、とうめいなたべものを感じられるような安息の日々がありますよう、心からねがっています。
そんな気持ちになりました、ということで。
三木さん、こんなに素敵なことを教えてくれてありがとうございます。
どうかこれからも、そちらから、見守っていてください。
三木さん作曲の「田舎の騎士道」を最後に。